様々な小売業がEコマースを拡大しています。
但し、取り扱う商品によって、全体売上に占めるEコマースの売上の割合には差があります。例えば、米国のEコマースの比率は家電で34%、アパレルで28%であるのに対し、家具・インテリアは13%です。家具は比較的単価が高いということもあり、またネットでは商品のサイズや色合い等がわかり辛く、店舗で現物を見てからでないと買うという決断が難しいということは言えます。日本でも、家具・インテリア小売大手のニトリや無印良品のEコマースの割合は6%台に留まっています。
その中で、家具・インテリアに特化した米国のユニークなEコマース企業があります。
Wayfairという会社です。
Wayfairは2002年にボストンで二人の起業家によって設立されました。彼らは最初、テレビ台やスピーカー・スタンドに特化したサイトを立上げましたが、その後鳩時計専門のサイト、犬のベッド専門のサイト、電気スタンド専門のサイト等、非常にニッチなサイトを次々と立ち上げていき、その数は250にもなりました。一般のサイトではなかなか見つからないような商品を幅広く揃え、ニッチなニーズを持つユーザーに着実に浸透して行く一方、これらの商品を供給するベンダーとのネットワークを広げていきます。一方で、単品のニッチサイトだけではリピーターとなるユーザーは限定的であることから、2011年にこれらをひとつにまとめたサイトに集約することにしました。これが現在のWayfairです。
Wayfairは急速に成長し、2018年の売上は前年比44%増の68億ドル(約7,500億円)にまで達しています。米国の家具小売トップのAshleyの売上が約47億ドル、米国イケアが約33億ドルですから、それを大幅に上回っています。2014年には上場し、現在は米国以外にカナダ・英国・ドイツにも展開をしています。
Wayfairが成功している要因のひとつは、家具・インテリアに特化しながら、その中で関連商品とのコーディネーションの提案がうまくされているということです。昨年Wayfairで購入したユーザーのうち既存客が67%を占めていることからもそのことはうかがえます。耐久財の家具は購買頻度が高くなく、リピート客はそれほど多くならないのが一般的ですが、その他のインテリア商品とのコーディネーションを訴求することにより、既存客が頻繁にサイトで購入しているようです。
Wayfairでは、テクノロジーの面でも様々な工夫がされています。
例えば、ビジュアルサーチ機能というのがあります。ユーザーがスマートフォン等で撮った家具の写真をWayfairのサイトにアップロードすれば、Wayfairの中の同じ商品や類似商品を自動的に検索するというものです。これによりユーザーはコーディネーションのプランをいろいろと試すことができます。
また、AR(拡張現実)を使ったサービスもあります。ユーザーはWayfairのサイトで対象商品を選び、これをスマートフォンを通して自分の部屋の中の好きなところに3D画像で表示することにより、その商品が自分の部屋に合っているかどうかを仮想的に見ることができるというものです。
このように、非常にニッチなところで革新的なサービスを武器に成長を続けてきたWayfairですが、現時点では営業赤字が続いています。その大きな要因のひとつが物流です。もともとは、原則としてWayfair自身が在庫を持たず、商品はベンダーからユーザーへ直接搬送されるドロップ・シップ方式を基本としていました。しかしこの場合、搬送のリードタイムがコントロールできず、また家具の搬送に特有の搬送中の商品の破損や返品への対応によりコストが増加するという問題があります。このため、Wayfairは商品の保管・出荷・配送も自前でやる方向に向かっており、その分コストがかかってきているようです。Wayfairでは、今年に入って、返品や売れ残り在庫を処分する実店舗をケンタッキー州の自社倉庫・返品センターに併設する等の対策も始めていますが、Eコマース戦略構築にあたって物流は日米ともに大きな課題です。
このような課題を抱えながらも、米国におけるEコマースは、家具のように従来はEコマースには適さないとされてきた商品についても、着実に拡大してきています。テクノロジーとユニークなビジネスモデル、そしてミレニアル世代(1980年代以降に生まれたデジタル・リテラシーが高く独特の価値観・嗜好を持つ世代)の消費者の本格的登場により、Eコマースの市場がダイナミックに変わってきているのを感じます。